研究内容


当研究室では、

1)マラリア原虫の赤血球侵入機構の解明

2)マラリア原虫の寄生適応機構の解明

3)寄生虫由来物質による宿主免疫の回避・修飾機構の解明

を三つの柱として研究を進めています。


1)マラリア原虫の赤血球侵入機構


 世界3大感染症に数えられるマラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる寄生虫病です。ハマダラ蚊の吸血によって媒介され、熱帯地方を中心に2億人の感染者がおり、年間60万人余の死者が出ています。マラリア原虫は赤血球に寄生するとその内部を貪食しながら分裂・増殖・再侵入を繰り返し、高熱や貧血などの症状で宿主の健康な生活を破壊して最悪の場合死に至らしめます。最も脅威にさらされているのはアフリカの5歳未満の子供たちと妊婦であり、日本は先進国としてどのように対策に貢献できるかが問われています。また日本にも大昔から終戦後しばらくまで土着の感染症として存在し、現在でも年間100人程度が海外で感染して帰国後に治療を受けており、決して無縁の病気ではありません。

 

 現在治療薬が効かない薬剤耐性マラリア原虫の出現により、マラリア対策は困難さが増していますが、感染や重症化を防ぐためのワクチンはまだ開発の途上にあります。しかし、マイクロソフト社創業者のビル=ゲイツ氏の財団がマラリア対策への支援に乗り出すなど、世界的な機運が高まりつつあります。

 

 私達はマラリア原虫の赤血球侵入がマラリアという病気の根本であると考え、そのメカニズムを解き明かすことで、赤血球への侵入を阻止できるワクチンや新しい治療薬の開発に貢献し、患者や死者を減らすことを目標に研究を進めています。

 

 マラリア原虫は赤血球へ侵入する時に、「カギ」の役割を果たすタンパク質を使って内部に侵入しますが、私達はこのタンパク質の一つ「EBL」に注目して研究を行っています。ネズミマラリア原虫のEBL上の輸送ドメインに点突然変異が起こった原虫株はEBLの細胞内の局在が変化する上に、赤血球ステージ選択性が変化し、感染率が極めて高くなり感染したマウスが死ぬようになります。私達は遺伝子組換え原虫を作製してこれを確かめ、EBLの細胞内輸送と病原性の関連性を見出しました。

 

 現在はこれらの「カギ」となるタンパク質をコードする遺伝子を組替えたマラリア原虫を作製し、赤血球侵入関連分子の細胞内輸送メカニズムの解析と赤血球侵入メカニズムの解明を目指して研究を行っています。

 


2)マラリア原虫の寄生適応機構


準備中 

3)寄生虫由来物質による宿主免疫の回避・修飾機構


マンソン裂頭条虫の擬充尾虫(幼虫)が分泌する免疫抑制因子の研究

 

 マンソン裂頭条虫の幼虫はLPS活性化マクロファージのTNF-α、IL-1β、一酸化窒素合成酵素(NOS)、IP-10ケモカインなどの遺伝子発現を抑制することを見出し、現在この免疫抑制因子に関する下記のテーマの研究に取り組んでいます。

 

 (1)この免疫抑制因子のクローニングと遺伝子組換えタンパク質の作製

 従来報告されている免疫抑制因子と性質が異なるため、新しい免疫抑制因子の発見につながる可能性があり、教室員全員で取り組んでいます。

 

 (2)マンソン裂頭条虫における免疫抑制因子の発現時期とその局在の解明

 この免疫抑制因子の幼虫内の局在を蛍光抗体法や免疫電子顕微鏡を用いて解明します。また、他の発育ステージで発現があるかについても解析する予定です。

 

 (3)in vivoでの免疫抑制活性とその機序の解析

 マンソン裂頭条虫の幼虫感染時やこの免疫抑制因子を投与した時のTLRリガンドによる刺激に対する免疫抑制効果をFACSやELISA法を用いて解析します。